その人は

 その人は、常にひとり。
 決して群れず、誰にも媚びず。
 どんな相手とも敵対せず、しかし他者との距離を全く縮めず。

 私は疑問符を浮かべる。
 その人が弱音を吐き、涙を見せたい相手は、いるだろうかと。
 己に渦巻く欲求を、言葉の波に乗せて放ちたいと思える者は、いるだろうかと。
 ……寂しくは、ないのだろうかと。

 その人は、かつての私の在り方に似ている。
 孤高。崇高。憧憬の的。
 かつて私が目指したものは、高潔でいて、ひどく拙く。

 世界がその人を映すカメラの外側で、その人は何を思うのだろう。
 その人も、ひとり、声を殺して泣くのだろうか。
 かつて私が、鏡に映る私の前でだけ、弱者として振る舞ったように。

 そのひとは、常にひとり。

文章の長さ: 掌編(2000字程度)
ジャンル: その他
視点: 一人称視点
恋愛傾向: 恋愛傾向なし
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