可変的で、刹那的で、だから愛しい

 てぃーさん、るーさん、むーさんは、テーブルを囲んでお茶会に興じています。アールグレイの紅茶が入った花柄のティーカップは、三人お揃いです。でも、三人は今、全然違った意見を持っていました。

「次の作品で子どもの夢をテーマにするのは、少し危険ではありませんか?」

 てぃーさんが眼鏡の位置を直しながら慎重に言うと、るーさんは大きく首を横に振りました。

「いや、その危うさこそが作品性を強めるんだ」

 そこに、むーさんが割って入ります。

「そもそも非実在人物の架空の夢だ、そこに危険も安全もないだろう」

 三人は暫し沈黙しました。そして同時に口を開きます。

「そもそも、夢とは?」

 てぃーさんはティーカップを片手に持ち、紅茶を一口飲みました。そして言葉を続けます。

「わたしにとっての夢は、将来設計や未来への願望です」

 成程ね、とるーさんが頷きます。

「それはワタシとは違うね。ワタシにとって夢っていうのは、ちょっと現実離れした空想さ」

 すると、むーさんは意外そうに言いました。

「寝ている間に見る夢のことを話していたのではなかったのか」

 三人はまた口を噤みました。辺りには薔薇の香りが漂い、遠くでは鳥の囀りが聞こえます。秘密の花園でのお茶会は、ゆったりとした時間の中で続いているのでした。

「てぃーさん。子どもが描く将来への願望を、キミはどうして危険だって思うんだい?」

「夢の言語化は、当人の将来を固定化し、時には引き返せなくするものだからです。子どもであれば、周囲の期待を裏切らないためにと、追いたくなくなった夢を手放せない場合も有り得ます」

 てぃーさんはるーさんに微笑すると、ティーカップを受け皿に戻しました。かちゃりという音と同時に、むーさんがケーキスタンドからトングでスコーンを取りました。むーさんはスコーンにブルーベリージャムを塗ると、フォークを刺して口に運ぼうとしましたが、その動きを止めます。

「てぃーさんにとっての夢は、不可変で永続的な未来と結び付いている……ということだろうか? 人間は常に変化していくもので、その時々で熱中するものは変わる。しかし将来の夢を宣言してしまうと、その人間の可変性を一部否定することにも繋がる。今まさに熱中しているからこそ夢を語りたくなるのに、夢を立てるとその熱の冷めた後に大きな足枷になる、というのは興味深い構造だ」

 言い終わると、むーさんはスコーンを一口食べました。つられるように、るーさんがラズベリー味のマカロンを一つ摘んで、口に放り込みました。咀嚼を終えると、徐に話し始めます。

「てぃーさんも、むーさんも、哲学者みたいだねえ。ワタシにとっての夢も、似たようなものだけれどね。何処までだって羽ばたける空想の筈が、いざその形を痕跡として世界に残そうって思うと、途端に現実的で重苦しい岩みたいになってしまうんだよ。でも、その危なっかしさがワタシは大好きだね。初めに思っていたのと違う、けれどももっとわくわくするモノが、生まれるかもしれないからさ」

「確かに、るーさんにとっての夢も、わたしにとっての夢と似た性質を持っていそうですね」

「だろう? じゃあ、むーさんにとっての夢は、どうだろうねえ?」

 るーさんは、むーさんの方を見ました。てぃーさんも、つられるようにむーさんに視線を向けます。紅茶を飲んでいたむーさんは、ティーカップを受け皿にゆっくりと戻し、二人の期待に応えました。

「私にとっての夢は、いつ見ても決して現実には成り得ない、後悔と安堵を同時的に味わう瞬間だ。その瞬間はまさに一瞬の出来事で、身体や精神の覚醒に伴って夢は忘却の彼方へと消し飛ぶ。しかし面白いのはここからで、夢の続きを見る時、私は明確にそれが続きであると理解している。それならこの夢は、現実として脳内に保管されているのだろうか? また、夢の内容を操作可能な場合もある。夢とは不思議なものだよ」

 むーさんの言葉に、てぃーさんとるーさんは楽しげに応じます。

「あら、わたしの夢への考えと同じですね」

「ワタシの思う夢ともかなりよく似ているよ」

 それなら、とむーさんは続けます。

「次の作品のテーマは『夢』で決まりだ。何故なら、私たちは『夢』について異なる見解を持ちながらも、同じ解釈をしているから」

「だったら、今回はタイトルを三人で同じにするってのはどうだい?」

「名案です」

 それから暫くの間、三人は、ああでもない、こうでもないと、創作物のタイトルを決めるのに時間を費やしました。太陽が西に傾き始めた薔薇の花園で、すっかり冷めた紅茶をお供にして。

「わたしは、夢が可変的であることを明示するべきだと考えます」

「私は是非とも、夢の刹那的な側面を強調したい」

「じゃ、ワタシはシンプルに、愛しいって気持ちを乗せたいね」

 三人が新たに創るモノは、果たしてどんな形になるでしょうか。

文章の長さ: 掌編(2000字程度)
ジャンル: その他
視点: 三人称客観視点
恋愛傾向: 恋愛傾向なし
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