2023年5月の短歌

*5月1日 お題【海】

海沿いを君と走れば潮風と波音ばかり 心地良きかな
空よりも宝石よりも美しく輝く海の瞳を見つめ
海の旅 波に揺られて数時間 謎の離島でお宝探し
海よ海 呼び掛けれども声はせず一際大きな波風が立つ
青空と海と花との境目で己の小さな命を思う

*5月2日 お題【涙】

幾筋も流した痕を手で拭い「大丈夫だよ」と微笑む君よ
紡がれる語りの重み 何時の間に感じ入ってか心が濡れる
ただひとり部屋の隅にてダム作り 頬を滴る涙の水圧
青春は汗と涙というけれどわたしのそれはあなたの全て
おかあさん どうして涙はしょっぱいの お菓子みたいに甘くていいのに
しとしとと降る雨見上げひとり泣く 声も涙もそっと隠して

*5月3日 お題【輝き】

夜の海 月の光に照らされて 水面(みなも)きらきら 私ゆらゆら
煌々と灯りが道に溢れ出す いらっしゃいませ 飲み物いかが?
夜が更けて布団の中で読む漫画 気付けば朝日が眠気を誘う
君の声まるで太陽みたいだと 目は伏せたまま耳を澄ませて
一本の懐中電灯指す先は闇か光か 手探り続く
あの星を取って飾って閉じ込めて僕だけのものにしたいと願う

*5月4日 お題【宝石】

紫水晶(アメジスト) 君はお酒が好きだからお守り代わりに指輪を渡す
傷ひとつないエメラルド 貴方との五十五年の歩みにも似て
わたしだけじっと見ていて欲しいからアイオライトをあなたにあげる
この想い天藍石(ラピスラズリ)に吸い込ませ空の彼方へ届けと願う

*5月5日 お題【本】

新しく届いた本たち眺めてはどれから読むかと迷いに迷い
息吸って大きく吐いて飛び込もう 不思議だらけの世界の中へ
金曜日 家にいながら小旅行 頁めくれば見知らぬ大地
何だっけ 思い立ったら意味を聞く 分厚く重い物識り博士に
紐解くは巨人の肩の上にある知識の森に植わりし大樹
書き記しどうにか仕上げた薄い本 開けば心は熱さに萌えて

*5月6日 お題【風】

一段と強さを増して吹いた風 君の身体を何処かへ飛ばす
ごうごうと響くは地鳴りに似た声音 空と大地の息吹と鼓動
透き通る水色の風 高らかに夏の初めの街並みを征き
その笑みが凪いだ心に風吹かせざわめかすのを君は知らない
片想い相手を知りて 胸の奥 雷雨と雹と竜巻生まれ

*5月7日 お題【お湯】

久々に湯船に浸かりリラックス シャワーで済ます日々思いつつ
寒い日はやっぱりこれねとヤカンからお湯を注いだ君と乾杯
忙しい日々のお供にカップ麺 食べる時だけ時間忘れて
温かい水を湯と呼ぶ人があり冷めた湯を白湯と呼ぶ人あり

*5月8日 お題【道】

裏通り 袋小路で立ち止まる 戻るかそれとも壁乗り越えるか
拒んでも泣きべそかいても夜は明ける 全ての道は明日へと続く
真っ白な足跡のない雪原の道なき道を歩く楽しみ
かちこちと時計の針が辿る道 真円描いて明日を告げる
この道と決めた夢追い幾年か 少年はまだ歩幅緩めず
マイロード貫き通す人の背を羨みながらレールに沿って

*5月9日 お題【香り】

街角のフラワーショップのバラを買い ひとりの部屋に君を香らせ
いつもとは違う香りを楽しんで贅沢尽くしのコーヒーブレイク
シャンプーか花かアロマか香水か 君が纏った魔法に見惚れ
「もしかして洗剤変えた?」「あ、分かる?」「貴方の香りが大好きだから」
家の前近付くだけで気付いたよ カレーライスが今夜のごはん

*5月10日 お題【薬】

百薬の長といっても飲み過ぎは駄目よと幾度も釘を刺され
君のない日々の痛みに効く薬 あるならとっくに飲んでいるのに
大丈夫 必ずきっとよくなるよ 苦い薬はあなたの味方
在りし日に涙こらえて飲んでいた苦さに何時から慣れたのだろう
病気とも怪我とも違う症状は癒えることなく心の中に
今日はこれ明日はこれと確かめて病の重さをずしりと感じ

*5月11日 お題【味覚】

コンビニの弁当売り場に訪れて 冷やし中華は季節の変わり目
今日はただ昨日の続き また明日も続きをするべく白米を炊き
冬の日の寒さの下で飲むスープ 広がる旨さに思わず笑顔
「おいしい」の正体追って考えて 辿り着けないおふくろの味
このサンド 君とふたりで作ったね 不思議な味をひとり飲み込む

*5月12日 お題【紙】

積み上げた紙束たちをシュレッダー 計算用紙に別れを告げる
お年玉 貰った頃はその紙の重さを知らず幼く泣いて
放課後の机の中に隠し入れ想いを告げた儚い青春
真っ白なキャンバスに描く別世界 魔法に冒険 不思議な友だち

*5月13日 お題【赤ペン】

作文でいちばん嬉しい瞬間は最後の小さな三行コメント
花丸の大きく描かれたテストだけとっておきたい苦手な科目
赤と青 オレンジ緑 カラフルなノート作りに時間を忘れ
間違いは正してくれればいいのにな 何も言わずに去り行く君へ
アンテナを張り巡らせて文字を呑み 赤ペン片手にコトバを食べる

*5月14日 お題【白】

真っ青な空に昇った太陽を時折横切る積乱雲かな
二月末 この頃になると思い出す 何も書かずに終わった試験
真っ白に伸びた音符の連続を奏でるために肺を広げて
赤と白 薔薇を束ねた花言葉 秘密の想いを言わずに渡し

*5月15日 お題【走る】

カタカタと音を鳴らしてキーボード叩き走らすラブストーリー
息を止め身体に向けて耳澄ます 熱い血潮の駆け巡る音
全力で走るととても気持ち良い 夏風よりも疾く遠くへ
いつもより少し遅めに家を出て少し速めに足を進める
もうこんな時間なのかと空仰ぐ 走り去りゆく時を追い掛け

*5月16日 お題【ラジオ】

声だけを一心に聴き追い掛けて 気付けば降りる駅はもう次
大声で危機を知らせるアラートの音を飲み込み息を吐き出す
この曲は知っているよと笑う君 世間知らずと思ってごめん
学び舎に通いし夜の楽しみを思い出してはスイッチを入れ
リクエスト受け付け中の番組で読まれた手紙を小躍りで聴く

*5月17日 お題【食べる】

君がいてくれた日ほどには味がせず 静かな夕べをひとりで過ごす
スーパーの試食コーナー駆け寄りて幼き舌で食せしメロン
席に着き「いただきます」と声揃え 幸せ噛み締め味わうランチ
「このカレーいつもと味が違うよね」「秘密のスパイスひと振りしたの」
君の声 君の吐息 君の涙 全部この口で食べ尽くしたい
家族向けレストランでのひとり席 気を付けて運ぶホットコーヒー

*5月18日 お題【野菜】

庭に出て苗の手入れをする人の柔らかな笑み 美味しく育て
「ねえ君の嫌いな野菜は何だい?」と訊ねる貴方の絶品料理
ちょっとだけ食べるつもりが満腹に 君のサラダはおかわり必至
忙しい日々を補う栄養素 野菜ジュースをごくごく飲んで
いつからか苦みが苦手でなくなってピーマン好きになり数十年
あの頃はあんなに嫌いだったのに今はむしゃむしゃ 不思議な心地

*5月19日 お題【出会い】

憧れの詰まった厚く重い本 扉開けば未知との出会い
二年前君と出会った瞬間にこの日が来ると信じていたよ
別れては出会い別れてまた出会う 巡る因果に終わりは見えず
雑貨店 思い掛けない巡り合い 猫の描かれたコーヒーカップ
初めての出来事だらけの新年度 満月の夜の家路を辿る

*5月20日 お題【葉】

一歩ずつ踏み締めながら進む道 古い木の葉の軽やかな音
紅い葉はまるで子供の手の平を巡る静かな血潮のようで
街を行き若葉を付けた自動車と擦れ違う度旅路を祈る
落葉樹 秋めく風が連れて来た カレンダーより鮮やかな色
もうこんな季節なんだと君は言い舞い散る葉を手に乗せては笑う

*5月21日 お題【円】

いつの間に時計の針がひと回り 生き急ぐ人を見下ろしながら
コンパスで花を描いた方眼紙 時間を忘れて咲き乱れさせ
空見上げ夜に煌めく真円の姿捉えてほっと一息
注がれた緑茶にそっと吹きかけた息が水面(みなも)を泳いで溶ける
クリスマスリースを作り玄関に飾りて過ごせし在りし日の冬

*5月22日 お題【影】

この影は誰のものかと振り向いて自分のだったと驚く夕べ
何時の世か光を影と呼んでいた頃の闇夜はどれほど暗く
永劫の別れを告げたあの人に似た面影が前を横切る
影を踏み踏まれて駆けた在りし日を思えば時の流れは速く
夜道行き 光があるから影があり影のない光はないと気付き

*5月23日 お題【合い言葉】

真夏日に目を隠し終えて呟いたあの思い出は今でも此処に
黄昏に「あなたはだあれ」の合い言葉 声で分かったその人の顔
随分と昔に作ったパスワード ヒントを見ても思い出せずに
ドア越しに確かめ合った秘密基地 今日も世界を陰から護る
掛け声に合わせて始まるファンファーレ この応援歌が勝利を君に

*5月24日 お題【夢】

あれがいいこれもいいねと語り合う時間がずっと続けばいいのに
君が今見ている夢は君だけの心に生きて君に寄り添う
作文に書いた未来の夢を読む 答えがイマなら六十点かな
休みの日 あと少しだけ寝ていたい さっきの夢の続きが見たい
喧噪の中で夢見る乙女らの唯一の今よ 幸いたまえ

*5月25日 お題【語る】

日が昇り沈む頃まで語り合い絆感じたあの夏の日々
物語る人の声へと耳澄ませ平和の定義に思いを馳せる
あの声があの行動があったのはこういう訳かと後から知りて
嘘であれ真実であれ無関係 噂話はひとりで歩く
夜空見て炎を囲み語り合う冬のキャンプを青春と呼び

*5月26日 お題【絵】

脳内のイメージ画像を現実にしたいと思って早数十年
作り手の苦労は知らず読み進め面白かったと画面を閉じる
明るい絵 真っ黒な絵 寂しい絵 美術館にて我を失い
友が描き我が記した物語 いつか世界に届けと願う
経験と記憶と感情 水で溶き 絵の具に混ぜて笑顔を彩る
似顔絵を描いてと君に言われても本物などには到底勝てず

*5月27日 お題【お菓子】

大袋開ければ同時に幕開く 友人たちとのパーティータイム
穴のある型に流して焼きながらどうして穴があるのと問われ
在りし日の駄菓子屋さんでのときめきを再び感じる大人の休日
瓶の中 色とりどりのキャンディを勿体ないから眺めて味わう
そういえば君はケーキが好きだった 苺の季節になる度思う
干し芋が沢山あるから食べてねとおばあちゃんちの記憶が過り

*5月28日 お題【メモ】

思い付き書き付けたのはいつの日か 書類整理で名案見付け
「食べてね」と書き置きをしてある夜食 君の優しさ噛み締め味わう
他愛ない話もそうでないことも全て記憶と記録に残し
何だっけ? あんなに練習したのにな 手元の台本チラリと見やる
百円で買ったメモ帳びっしりと あなたのためにレシピを語る

*5月29日 お題【頷き】

名を呼ばれはいと答えて笑う君 風に吹かれて揺れる前髪
目を合わせ何も言わずに頷けば始まるふたりの恋物語(ラブストーリー)
店先で注文内容確かめてひとり頷く新人店員
「今平気?」「暇をしていたところだよ」 夜が明けるまで通話は続く
この道も君と二人で歩いたね 話に頷く日々思い出し
目を向けて呼吸を合わせて頷いて硝子細工のように奏でる

*5月30日 お題【家事】

いつの間に溜まって山になっている洗濯物をようやく洗い
皿洗いすれば数分 するまでに掛かる時間は時に数日
マイナスをゼロにするのが家事という ゼロをイチにはできないものか
コーヒーを淹れて一息吐いた後 床の掃除をしようか否か
君がいた頃より随分簡単に部屋が綺麗になると驚く
楽しげなラジオの声を聴きながら作る料理は激辛カレー

*5月31日 お題【氷】

夏の日といえばやっぱりかき氷 しゃりしゃりきーんと味わい尽くす
冬晴れの庭のバケツに張る氷 朝陽の反射に布団で見入る
家の鍵締め忘れたかと寒気がし背筋の骨が氷と化して
大玉のスイカを冷やす氷水 手を浸したら涼しいかしら
君の眼の奥に確かにある氷 僕の両手で融かしてみせる
透明な氷はどうしてできるのと製氷皿を見詰める君よ

文章の長さ: 詞・俳句・短歌など
ジャンル: 日常 現代日本
恋愛傾向: 片想い 両想い 失恋 恋愛傾向なし
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