2023年4月の短歌

*4月1日 お題【夜】

花吹雪 待てど暮らせど来ぬ朝に 散りては風と香るほとぼり
朧月 照らせし闇のその中に秘めし想いは 影へと溶けて
開いては閉じ開いては呟きて 時の悪戯 夜は消えゆく
夕焼けの空の彼方の鱗雲 芳しきかな 夕餉の足音
暁に見上げし星の沈む先 朝が巡ればまた夜も巡る
我が事を置き去りにせし日々の末 残るは心地良き身の疲れ

*4月2日 お題【冬】

いつの日もこの日の朝の静けさに勝らぬものと思ふ元日
街を行く男女の距離の近きこと 聖なる夜にひとりの我が身
漂える梅の香りに目を遣れば 紅色の花弁が降りぬ
掛け布団 増やせど消えぬ冷たさよ 心ゆくまで寝過ぐしてしがな
やわらかき光の下で吹きすさぶ木枯らしに舞う落ち葉と白雲
友と行き語りて笑いしかの道を 今はひとりで行くクリスマス
寒空を学生服と見上げては必ず星を掴まんと思ふ
吐く息と積もる雪とにある白を 優しき影で照らす寒月

*4月3日 お題【コーヒー】

快晴を突き刺す風の如きかな ほろ苦き熱を飲み干す刹那
黄昏の恵みの雨の雫の音 薫り煙れば心も躍る
今日もまた「お待ちどうさま」聞けたから エスプレッソに砂糖を混ぜる
駅前のベンチの隅に腰を掛け 缶コーヒーは待ち人の味
喫茶店 酸いも甘いも知る人に訊ねし恋の味覚は苦く
カフェオレとどっちにすると君は問う 時間よ止まれと僕は答える
月曜日 何でもない日にご褒美を 甘味と溶けて広がる幸せ

*4月4日 お題【炭酸】

道を行き無性に恋しくなった時 自販機見付けて貴方を探す
爽やかに吹く夏風のような味 甘く酸っぱく懐かしい味
茶瓶からグラスに注ぐ数秒を 楽しむために何杯も呑む
春休み ポップコーンと共に買ふ 愛と勇気と絆の銀幕
何事も気にせず飲みて悔いはなし ふわりふわりと夢心地にて
冷蔵庫 入れっぱなしのまま一夜 風味は劣れど泡音は立ち

*4月5日 お題【青】

絵筆持ち 数刻ばかり色を混ぜ ようやく塗れたあの夏の空
春の日の桜の花と木漏れ日と 見上げた先に広がる秘色(ひそく)
舟浮かべ 水面に映る晴れ模様 鏡のようだと君は呟く
安息を惜しむ夜闇に意味を問う 「それでも生きる」とランプ灯して
学び舎に響く歌声涙声 春の弥生の良き日の別れ
悲しみに絵の具で色を足すならば これ以上なく深い青色
山の青 海の青より透ける青 気まぐれな君のためにある青

*4月6日 お題【たんぽぽ】

道の端 人知れず咲き散る花よ 何より遠くへ綿毛を飛ばせ
風雨にも折れぬ心で天仰ぐ 獅子の牙なる小さき勇者
うつむけば目が合う心地 太陽のごとく輝く一輪の春
花畑 数日前の黄金は白に変わりて風へ溶けゆく

*4月7日 お題【風】

屋根までといわず彼方へ飛んでゆけ 円くつやめく透き通る膜
隙間風 揺れたカーテン 曇り空 連れてくるのは吹雪か春か
ざわざわと木立の立てる音で知る 時の流れを告ぐ季節風(モンスーン)
刻々と空の模様を変えるのは君かと問えば 雲はたなびき
山合いの冬の牧場の冷たさよ はっと目醒めて朝焼けを見る
氷解く東の風に始まりて七十二候を紡ぐ歌声

*4月8日 お題【記録】

君が今生きていること 泣けること 代わりなどないワールドレコード
忙しくゼロとイチとを行き来して紡ぎ出されるハローワールド
手の中でさっと閉じ込め切り抜いて イマをイマのまま明日に残す
幼き日 白黒からなる思ひ出を 僕は色彩(カラー)で見惚れて居たよ
三月前 最後を言い渡された日の着信履歴 時折眺める
紐解けば過去を呼び出し寄り添える 時を忘れて挟んだ栞
忘れても思い出すのは君のため 永遠(とわ)の別れの約束のため

*4月9日 お題【鍵】

箱を開け幼き日々を懐かしむ わたしのための変身アイテム
物語(サスペンス) どの一言も見落とさず最後はすっきり裏切りに遭い
四桁の暗証番号忘れては君の車の色思い出す
置き去りにしては嘆きを繰り返し 呆れた君と「ただいま」を言う

*4月10日 お題【チョコレート】

時機を過ぎ安売りされたチョコレート 買ってにっこり 甘いご褒美
如月に渡せし気持ちの返答を弥生にもらい心も弾み
ミルク ビター その中間の味わいは 心も溶かす 白雪の日に
人生はチョコレートほど甘くなくカカオマスほど苦くもあらず

*4月11日 お題【歩く】

「たまには」と一本外れた道を行く 木々の隙間に春を感じて
車窓から次々見えた風景が今日はスローで遠のく不思議
この道と決めたルートをただ前へ 戻りも止まりもできぬ人生
ひとりでは存外広い裏通り 君が隣にいた日々想い
触れる手の温かきかな ぎこちなく握って離れ 握り直して

*4月12日 お題【温度】

今だけはこの関係を脱ぎ捨てて君の熱さを肌で感じる
予報よりやや肌寒さ感じつつ 隣の君の温かさ知る
温度計見ながらボウルかき混ぜる テンパリングはあの子のために
雨上がり 虹を探して外行けば 夏の空気に打ち負かされて
「ただいま」を言う暇もなく冷蔵庫 開けて冷やしたビールをごくり
軒先の蕾が花と咲く頃に バケツに張りし氷も融けて

*4月13日 お題【片付け】

部屋の隅 積まれた本を見付けては 時間が埃を被るまで読む
年の瀬の最後の休みの大掃除 新年(あす)を出迎え心も軽く
また明日 また来週と先送り 気付けば足の踏み場も消えて
我が街の住まいや路を整えて スマートフォンをいじり数刻
もういない君が残したあれこれを捨てて気付くよ 部屋の広さに

*4月14日 お題【知る】

失って初めて気付くものがある 強さ大きさ優しさ脆さ
「分かること それは何かを分けること」 幾年経ても耳に残れり
あの日だけではなかったと今思う 君が隠れて流した涙
図書室の百科事典をめくっては 未知にわくわく 宇宙の不思議
知っていたつもりになっていたのかな 僕らは互いを何も知らない

*4月15日 お題【痛み】

今もなお心に残る鈍痛の心地よきこと 君との思い出
雨降りの予兆か否か 暗雲と頭の痛みとペトリコールと
玉ねぎに目を差し出して作る味 痛みの数だけ「おいしい」もある
別れ際 君が放った一言がナイフのごとく胸を突き刺し
「生きている」その実感を得るために腕に何度も引いた横線

*4月16日 お題【レシート】

束にして財布に入れて数か月 そろそろかなと重い腰上げ
日曜日 いつもの店のレジの人 その名を知りてひとり微笑む
まとめ買い 何を買ったか忘れがち 「何で買ったの?」 後悔しがち
メモ帳の代わりに書いた割り勘代 気になるあの子の筆跡眺める
レジを抜け貰うレシートの長さに 買いすぎたかもと呟く君よ
レジ前のレシート入れに目をやりて他人(ひと)の暮らしの欠片を知りぬ

*4月17日 お題【眠る】

金曜日 温度と呼気を感じつつ君の隣で終える一日
葡萄酒と眠りの悪魔に誘われて今宵も薔薇を食む夢を見る
暁を覚えず四季はまた巡る 私の寝坊は年中無休
この場所で幾度涙が枯れたのか 桜舞い散る墓標にひとり

*4月18日 お題【傘】

雨上がり 開いたままの傘の中 君の笑顔を僕だけが知る
見下ろせば色とりどりの花のよう 雨の中行く学生の列
気まぐれにリユース市場で買った傘 元の主の人柄思う
夕立と「忘れちゃった」の一言で 今日も僕だけ右肩濡らす
紫陽花の葉に蝸牛 どこへ行く 私はこれから仕事に行くよ

*4月19日 お題【ランチ】(『土曜のランチ』より)

君と行く土曜のランチ 夏草の仮初に触れし手のほとぼりよ
秋草の靴の結び目解く君 土曜のランチ 装い新たに
吐く息の白 降る雪の白さえも溶かす心に 土曜のランチ
あらたまの年また一つ巡りけり 土曜のランチ変わらずもがな
久方の空の青さに春心 土曜のランチ 君と語れば
久方の雨は降れども晴る心 土曜のランチ 一つ傘差し
あらたまの月こそ昇れ 君の声 土曜のランチ 心ゆくまで

*4月20日 お題【時計】

カチカチと秒針の音が響く部屋 せわしく生きた君なしの部屋
「あの頃に戻れたなら」と悔いる日々 針と重ねて刻んで廻す
電池切れ 目覚めの刻は知らされず 何もない日にほっと一息
時を告ぐ鳩の声音に耳澄まし明日までの距離の長さを想う

*4月21日 お題【音】

静寂に耐えて通話のボタン押し 君の声待つ 一人の夜道
学校の音楽室にあるピアノ 友と奏でた数多の音色
金曜日 道行く人の足音の軽さ羨む 明日も仕事
目を閉じて聴いた雨音書き残す しとしとと降る恵みの雫
信号が青になったと告げる声 慌てて渡る横断歩道
昨日より少しは上手くなったかな? 指と呼吸で音符を紡ぐ

*4月22日 お題【闇】

おもちゃ箱みたいな日々に安らぎを 真っ暗の部屋でおやすみなさい
触れる度壊してしまいそうになる 夜より昏い絹糸の髪
カーテンの向こうに広がる夜の街 彩る光に闇を隠して
銀幕の暗転の間の沈黙を味わうためと幾度も通う
救いとは斯くあるものか 悲しみも痛みも全て包み込む闇

*4月23日 お題【隠れる】

かくれんぼ 見付からないまま夜が明けて「もういいかい」と涙を落とす
太陽の影の奥へと逃げ込んで眩しい君の優しさ拒む
鍵を掛け耳を塞いで目を閉じて虚無と孤独の蜜を愉しみ
「何処でしょう?」 悪戯好きな君のため 愛に隠れた寂しさ探す
思い出す 雨に隠れて泣いた日々 頬を流れた雫の温度

*4月24日 お題【緑】

月曜日 週に一度のご褒美は甘くて苦い抹茶のアイス
さよならを言ってここから去った君 緑のカップを置いてきぼりに
寝転んで草の香りに身を委ね大地の力を心に刻む
一か月前は満開桜色 今は葉広げ緑の並木
国語理科算数社会 プリントを入れる緑のファイルは理科用
給食の日替わりタオルの緑色 持って行く日は楽しいデザート

*4月25日 お題【充電】

一晩中遊んでいたら電池切れ しばし休んでまた遊びます
起きてすぐ慌ててコードを挿したけど 心許ない50%
休みの日 思う存分寝過ごせば夜の訪れ 明日は仕事
スイーツにあったか毛布とコーヒーと贅沢尽くしの充電日和
ラジオよりCDよりもこの音を コンサートにて空気を浴びる

*4月26日 お題【雨】

その音は恵みか嵐か 家々を揺らす風雨に畏れを抱き
「この雨はわたしが傘を差したから降ってきたの」と君は笑えり
ピッチピッチチャップチャップと高らかに予報外れの雨に歌えば
色のない世界に注ぐ音の雨 ずぶ濡れなれど心は晴れて
雨の日の人の気配の少なさと車を降りるブレザー姿

*4月27日 お題【お酒】

コンビニを三軒巡れど見付からぬ 愛しの梅酒よ何処(いづこ)にあらむ
在りし日を偲びてひとり夜に呑む 常連たちよ息災であれ
飲み過ぎは身体に毒と知りながら美味しいものねと昼から飲みて
悲しみをアルコールにて消毒し今宵も朝まで意識を溶かす
誕生日 祝いの席の真ん中で初めての味の瓶を見つめる

*4月28日 お題【別れ】

サヨナラを言ったそばからこんにちは 巡り合わせはどこまで続く
あの味は思い出の中 もう一度口にしたいと今更願う
おはようで始まる日々を懐かしむ 君の声音は記憶の彼方
君の背が見えなくなるまで手を振って独りに戻る また会う日まで
がらんどう 今日でここともお別れと ゆっくり歩いて最後を惜しみ

*4月29日 お題【ポケット】

叩くたび増えてくれたらいいのにな 一つしかないビスケットを見て
君の手を招いた日々に別れ告げ 厳しい寒さに両手を浸す
手の平に収まる友と旅をして絆深めて玉座に昇る
ポケットのスマホを出せば君の声 誤発信だとあえて言わずに

*4月30日 お題【休日】

今日こそは出掛けて遊ぶと意気込んで結局一日布団で溶かす
日曜日 映画が見たくなったから 家族連れたち譲って並ぶ
明日まで仕事をしたら二連休 家事に迫られ消し飛ぶ暇(いとま)
週末はお酒を飲むと決めている 君の作ったおつまみ片手に
久々に顔見せようと故郷へ 駅弁味わう大型連休

文章の長さ: 詞・俳句・短歌など
ジャンル: 現代日本 日常
恋愛傾向: 恋愛傾向なし 片想い 両想い 失恋
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