日本語アドバイス(26/02/05)の補足資料#13 同一語彙表現の回避方法⑨

 この記事群は、同人小説にコメントを付すサービス「感想&日本語アドバイス」で依頼者様に送付した補足資料(にちょっと変更を加えたもの)です。この記事を書くに至った経緯、参考文献などは、 #01 はじめに をご覧下さい。

1.1.    BEFORE

そうはいっても実際鈴木はあまり酒に強くないと思う。以前一緒に自宅で飲んだときも、数パーセントの酒を何本か飲んだだけで酔っ払っていた。
自分から飲みに行くなんてことはないだろうが、優秀な人間というのはそれだけでひっぱりだこなものだ。大学生という身分もあって鈴木は少なからず飲みの場に出かけることがある。そんな話を聞くたびに佐藤は不安になってしまう。

1.2.    AFTER

そうはいっても実際、鈴木はあまり酒に強くないと思う。以前一緒に自宅で飲んだときも、数パーセントの酒を何本かで酔っ払っていた。
自分から居酒屋やバーに行くなんてことはないだろうが、優秀な人間というのはそれだけでひっぱりだこなものだ。大学生という身分もあって、鈴木は少なからず飲みの場に出かける。話を聞くたびに佐藤は不安になってしまう。

1.3.    改善案の生成プロセス

文脈
鈴木は酒にあまり強くない。だが飲みに行くことが多いようだ。話を聞く度、佐藤は不安になる。

目標
①「飲み」(名詞)および「飲む」(動詞)をそれぞれ1回だけ許容したい。
②「少なからず」と「ことがある」の相性を確かめたい。
③可読性向上のために、適宜読点を打ちたい。
④念のため、「酔っぱらう」の定義の確認がしたい。

1.3.1.   「飲む」系の言葉の整理

 原文では「飲んだ」「飲んだ」「飲みに行く」「飲みの場」というように、「飲む」系の言葉が4回用いられています。これらを整理し、「飲む」系の言葉を少しでも減らそうと試みてみます。

 1つ目の「自宅で飲んだ」については、保持しても良いように思います。もし言い換えるなら、「酒盛り」「宅飲み」などでしょうか。

 2つ目の「何本か飲んだだけで」については、直前に「自宅で飲んだ」という情報があるため省略が可能です。このため、「何本か飲んだだけで」の「飲んだ」の部分は削除します。そうすると、「何本かだけで」とか「何本かで」というふうになります(ここで「だけ」を入れるか入れないかについては、「酔っ払う」の定義の確認の際に述べます)。また、「数パーセントのチューハイ数本で」のように、「酒」を具体的に言い換えても良いでしょう。

 3つ目の「飲みに行く」は、「行く」が場所を表わす名詞と相性の良い言葉なので、飲酒が可能な場所を具体的に数か所出せば、言い換えが成立したと言えるでしょう。そこで、「居酒屋やバー」としてみました。他にもお酒が飲める場所はあるでしょうから、その場所を列挙してもOKです。

 4つ目の「飲みの場」は保持しても良いですし、「飲み会」に言い換えても良いかもしれません。

1.3.2.   「少なからず」と「ことがある」の相性

 「少なからず」という表現は、「数量、または程度が、すこしどころではなく。大いに。たくさん。たいそうに。はなはだ」(日本国語大辞典)という意味です。また、「~することがある」という表現は、「いつもではないが時々~する」(日本語NET)という意味です。

 それぞれの語義を考えると、「少なからず~ことがある」は、「いつもではないが時々、すこしどころではなく~する」ということになるので、意味がバッティングします。このため、いつもなの? いつもじゃないの? 少しなの? 沢山なの? と混乱が生じるかもしれません。

 念のため用例調査をすることにしました。現代日本語書き言葉均衡コーパスを検索できる、国立国語研究所によるツール『中納言』において、「ことがある」を文字列検索し、検索結果として出てきた500件が表示された状態で「少なからず」をサイト内検索したところ、共起例はありませんでした。

 このため、私なら「少なからず」と「ことがある」は同じ構文としては用いません。恐らく、原文が言いたかったのは「飲みの場に出かけることも少なくない」(≒鈴木さんは、どうやら割と結構、飲んでるっぽい)のような表現かな? と推測します。

1.3.3.   読点を打つ

 このテクニックはかなり好みの問題を含みますが、固有名詞の直前に読点を打つことで、当該固有名詞の可読性を上げることが出来ます。これは、とりわけその固有名詞が主語になっている場合に有効であるように思います(逆を言えば、読点を打たないことによって、意図的に可読性を下げることも可能です)。AFTERでは、「実際」と「鈴木」の間に読点を打ちました。また、「~身分もあって、」と「鈴木」の間にも読点を打ちました。幾分、可読性が向上したような気がしますが、そんなに変わらないような気もします。好みの問題です。

1.3.4.   「酔っ払う」の定義の確認

 原文には「数パーセントの酒を何本か飲んだだけで」酔っ払ったと書かれています。この文を読んで私は、「数パーセントの酒を何本か飲んで酔っ払うのって、お酒に弱いといえるのだろうか?」という疑問を持ちました。そこで、「酔っ払う」の定義を確認しておきます。

 まず「数パーセントの酒」を定義します。「数パーセント いくつ」でググってみました。AI要約によれば「2%から10%程度」らしいです。本当か? 私の感覚では「数パーセント」ってせいぜい5%くらいだぞ!? と思いましたが、間を取って6%ということにします。多分、缶チューハイならアルコール度数は6%くらいだと思います。お酒の缶は350mlが標準とされているようです(何故なら500mlは「ロング缶」と呼ばれるため)。そこで、「数パーセントの酒」は350mlでアルコール度数6%の何らかの缶チューハイ、ということにします。

 次に「何本か」を定義します。これは「数本」と同義であると思うので、「数本 いくつ」でググってみました。AI要約によれば、「3~5本」が数本とのことです。本当か? 私の感覚では「数本」って2~3本くらいだぞ!? と思いましたが、とりあえず間を取って、4本飲んだことにします。

 すなわち、350mlでアルコール度数6%の何らかの缶チューハイを4本飲んだと仮定します。

 そして、これが「酔っ払う」に該当するかを考えます。サントリーの「お酒との正しい付き合い方を考えよう」というページには、体重と飲酒量を入力することによって、酔いの程度を判定することができる計算ツールがあります。今回はこのツールを利用することにします。

 ツールの利用のためには、体重のデータが必要です。私には鈴木さんの正確な体重が分からないので、日本人の20代前半の男性の平均体重を利用することにします。日本人の20代前半の男性の平均体重は、e-Stat(身長・体重の平均値及び標準偏差 – 年齢階級,身長・体重別,人数,平均値,標準偏差 – 男性・女性,1歳以上〔体重は妊婦除外〕)によると以下の通りです。

20歳57.0kg
21歳64.8kg
22歳65.3kg
23歳72.7kg
24歳68.6kg
25歳63.6kg

 このデータを単純に足し算して6で割ると、65.3333……となりました。かりに「20代前半の男性の平均体重は、65.3kgである」とします。

 データが出揃いました。

 65.3kgの人が350mlでアルコール度数6%の何らかの缶チューハイを4本飲んだ。

 この状況を、サントリーのページに入力します。体重は65.3kgです。少し下にスクロールすると、飲酒量を記入する表があります。ここには6%のお酒は書いてありません。「上の表にない場合はアルコール度数と飲酒量を記入してください。」があります。ここに記入していきます。飲酒量のアルコール度数は6%です。そして、飲酒量については、350mlを4本飲んだので、350×4の1400mlと記入します。

 そして「判定する」をクリックします。すると……?

 アルコール血中濃度は0.15%で、酔いの状態としては「酩酊初期」と出ました。酔いの状態は「気が大きくなる」「大声でがなりたてる」「おこりっぽくなる」「立てばふらつく」です。しかし、よく見ると「0.15%」はギリギリ酩酊初期で、もしもうちょっと飲んでいたら「酩酊期」に突入します。

 「酩酊期」とは何ぞや? 同じくサントリーの計算ツールによれば、酔いの状態としては「千鳥足になる」「何度も同じことをしゃべる」「呼吸が速くなる」「吐き気、おう吐が起こる」とあります。

 私の感覚では、「酩酊初期」の段階で既に「酔っ払う」といえるのではないかなと思いますが、「酩酊期」に突入していれば完全に「酔っ払った」認定で良いのではないかなと思います。すなわち、原文の、「数パーセントの酒を何本か飲んだ」ら酔っ払ったというのは、(ここまでの論理の前提が全て正しければ)私の感覚に照らして妥当です。

 このため、原文の、「数パーセントの酒を何本か飲んだ」ら酔っ払ったという事実をもってして、「酒に弱い」と言い切れるかどうか、私には少し自信がありません(しかし、もし鈴木さんの体重がもっと重くて、例えば80kgとかだったら、「数値的にはまだ酔わない筈なのに、明確に酔っ払っていたから、酒に弱い」というふうに言えるかもしれません)。

 ただし、これは佐藤さんの視点に立った三人称限定視点の小説なので、佐藤さんがかなりお酒に強い場合は、話が変わってきます。佐藤さんの中には、「達樹は数パーセントの酒を数本で酔っ払ってしまう。もし自分だったらそれくらいでは全く酔わないのだが……」みたいな感覚があるかもしれません。

 実際に鈴木さんは、何パーセントのお酒をどれくらい飲んで酔っ払ってしまったのか?(例えば3%の缶チューハイ1本でべろんべろん、とかなら、体重がそれなりにあってもなくても「かなり弱い」といえそうだな~、と私は思います) 「酔っ払う」の定義について、詳しく掘り下げてみるのも、おもしろいかと思います。

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文章の長さ: 掌編(2000字程度)
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