日本語アドバイス(26/02/05)の補足資料#06 同一語彙表現の回避方法⑤

 この記事群は、同人小説にコメントを付すサービス「感想&日本語アドバイス」で依頼者様に送付した補足資料(にちょっと変更を加えたもの)です。この記事を書くに至った経緯、参考文献などは、 #01 はじめに をご覧下さい。

1.1.    BEFORE

佐藤は画面を閉じて、ため息を吐く。節約のために暖房を切っているせいで吐く息は白い。それを見て彼はぶるりと体を震わせた。集中していたせいで気にしていなかったが、この部屋は随分と寒い。
もう寝てしまおう。風邪を引いてはせっかく節約をしても意味がない。

1.2.    AFTER

佐藤はスマホをパソコンデスクに置いて、ため息を吐く。息が白い。節約のために暖房を切っているからだ。パソコン画面に集中していた時は気にならなかったが、この部屋の空気は今、外と同じくらい冷たいかもしれない。自覚した途端、体が温もりを求め始めた。
もう寝てしまおう。風邪を引いてはせっかく節約をしても意味がない。

1.3.    改善案の生成プロセス

文脈
集中してたから気にならなかったけど、節約のために暖房OFFにしてるので部屋が寒い! ため息が白いくらいに、寒い! 風邪引いたら節約の意味もないし、もう寝ちゃおう。

目標
①「吐く」を1回のみ使用したい。
②「震える」「寒い」は少し後ろの文で使うために温存したい。
③没入度を4から5の間で保ちたい。

1.3.1.   ため息について

 ため息を吐いたのは何故? それは、自分を落ち着かせたり、「達樹に会いたい」と思っている自分を現実に引き戻したりするため。そこで、鈴木さんにアクセスできないようにするために、スマホをパソコンデスクに置いてみました(完全に好みの問題です)。

 原文を踏襲し、文末はル形にしています。

参考
佐藤はスマホをパソコンデスクに置いて、ため息を吐く。

 ため息が白いことは、「え、息、白いじゃん!?」という発見なので、次の文で端的に示すことにします。では、どうして息が白いのか? それは、部屋の空気が冷たいために、温かい自分の呼気に含まれている水分が冷やされて、空気に含むことの出来る水の量(飽和水蒸気量)が減り、水蒸気が凝結して小さな水滴となるからです。その水滴が、光の反射で白く見えます。この情報は自明である(あるいは、科学的な背景を説明する必要がない文脈である)ので、書きません。一般的な世界知識を有する成人済み相当の読者であれば、「吐く息が白い」を「寒い」と解釈することが可能です。

参考
佐藤はスマホをパソコンデスクに置いて、ため息を吐く。息が白い。

 「え、息、白いじゃん!?」の原因は、端的に言うと、部屋の空気が冷たいことです。では、部屋の空気が冷たいのは、どうして? それは、暖房代を節約したいので部屋を暖めていないからです。この情報は自明ではない(少なくとも、読者が容易に推測できる情報ではないと思われる)ので、地の文の中できちんと書きます。

参考
佐藤はスマホをパソコンデスクに置いて、ため息を吐く。息が白い。節約のために暖房を切っているからだ。

1.3.2.   「寒い」の回避

 では、暖房を点けていなかったのに、今まで寒さを感じなかったのは、どうして? それは、先程までは投資の仕事に集中していて(佐藤さんが使える認知リソースの多くが仕事のことに向いていて)、気にならなかったからです。しかし今は投資の仕事を終えて、集中力が切れています。恐らく今は、佐藤さんが使える認知リソースの多くが寒さの感知に向いています。

参考
佐藤はスマホをパソコンデスクに置いて、ため息を吐く。息が白い。節約のために暖房を切っているからだ。パソコン画面に集中していた時は気にならなかったが、【この部屋めっちゃ寒くない!?】

 この「寒い」は次のシーンのために温存し、なるべくなら回避したい。他の言葉に言い換えます。

 「寒い」というのは、どういう状況か?

風や空気が冷たい 風が空気が鋭く刺すように肌を刺激してくる 手足の感覚がなくなる 凍りそうな気がする このままの状態ではいたくない 我慢できない 放置していたら死ぬかも 身体が震えて熱を作ろうとする 眠くなる スープとか味噌汁とか、あったかいものが飲みたい 毛布がほしい 湯たんぽがほしい 布団の中に潜り込みたい ストーブ点けたい 暖房点けたい 誰かの温もりが恋しい 太陽の日差しを浴びたい お風呂に肩まで浸かりたい せめて足湯 背中かおなかの辺りに貼るカイロが欲しい 電気カーペットの上に座りたい 何か温かいものと物理的に接触していたい 心とかじゃなくて、物理的な温度のほう

 他にも、科学的に説明する方法、慣用表現を使う方法、個人的な体験や誰かから聞いたエピソードを使う方法など、「『寒い』というのは、どういう状況か?」の答えは、沢山あるに違いありません。思い付いたものの中から、文脈と照らしてしっくりきたものをチョイスし、「寒い」を回避します。

 そこで、直前の「息が白い」という発見を生かし、その流れのまま、佐藤さんが観測した状況を記述することにします。すなわち、「風や空気が冷たい」をチョイスしました。そしてその次に、「空気が冷たい」と認識した佐藤さんの内面「何か温かいものと物理的に接触していたい」を記述します。「空気が冷たい」の要素と「何か温かいものと物理的に接触していたい」の要素との間には、文と文との繋がりを強固にするため、「自覚した途端、」を入れました。

参考
佐藤はスマホをパソコンデスクに置いて、ため息を吐く。息が白い。節約のために暖房を切っているからだ。パソコン画面に集中していた時は気にならなかったが、この部屋の空気は今、外と同じくらい冷たいかもしれない。自覚した途端、体が温もりを求め始めた。

 没入度を4または5で推移させるために、主語「佐藤」を非明示にし、話し手の主観を表わす表現「~かもしれない」を用いました。また、最後の文では主語を「佐藤が」や「佐藤の体が」ではなく、「体が」としました。佐藤さん本人の思考を記述しているように書いています。もし最後の文で更に没入度を上げたい場合は、「~冷たいかもしれない。何か温かいものがほしい」のようにしてもいいかもしれません(が、次の文でも心の声が記述されているので、この段階では殊更に没入度を上げる必要はないかもしれません。お好みでどうぞ)。

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目次:日本語アドバイス(26/02/05)の補足資料#01 はじめに

文章の長さ: 掌編(2000字程度)
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