「味わわせる」vs「味あわせる」

1.    違和感があっても、「味わわせる」だよ

 所属しているDiscordサーバーで、間違っていない筈なのに「味わわせる」に違和感がある、という話題が出ました。今日は、これについてあれこれ考えてみようと思います!

 「味わわせる」って、何?

 学校文法的にいうと、「味わわせる」は、動詞「味わう」に使役の助動詞「せる」がついたものです。動詞「味わう」はワ行五段活用というやつなので、「わいうえお」の5つ(=ワ行の部分のあいうえお)の活用の仕方をします。すなわち、活用形は「味わわ」「味わい」「味わう」「味わえ」「味わお」となります。そして、「味わわせる」の「せる」の部分――使役の助動詞は、動詞の未然形の後ろにくっつきます。「味わう」の未然形は「味わわ」なので、「味わわ+せる」で「味わわせる」になっているんですね。

 でも、人によっては「味わわせる」に違和感を持つようです。なんでやろな~?

 私は考えました。「『わわ』という響き、つまり、ワ行五段活用が未然形になっている状態が、違和感の正体なんじゃね?」と。なぜなら、世の中には「味わわせる」を「味あわせる」と言いたくなっちゃう人が一定数いるみたいだからです。


2.    「わわ」……?

 私は「JapanKnowledge」(以下、ジャパンナレッジと記します。百科事典や国語辞典、様々な学問分野の用語集、古今東西の文学作品など、多岐にわたる書籍を検索・閲覧できるサービスです)を利用しています。私はJKパーソナル+Rの会員(おねだん、ちょと、する)ですが、お近くの大学やお住まいの地域の図書館がジャパンナレッジに加入している場合もあるかもしれません。それなら無料で使えるね! やった! ジャパンナレッジの詳細はこちらからどうぞ。

 さて、私がジャパンナレッジを開いた目的は、動詞において「わわ」がある状態、すなわち、「ワ行五段活用が未然形になっている状態」を探すことです。そこで、ジャパンナレッジの詳細検索で「デジタル大辞泉」を検索し、ワ行五段活用(古語はハ行四段活用)かつ「-わう」で終わる動詞を集めようと試みました。その結果、以下の4件がヒットしました。

味わう
賑わう
祝う
化粧う(けわ-う)

 けわう!? かっけー! でもこの子は多分現代ではあまり使わない。

 これらを未然形に活用させると、「味わわ」「賑わわ」「祝わ」「化粧わ」になります。現代ではあまり使わない「化粧わ」は考えないことにして、「賑わわせる」「祝わせる」はどうでしょうか。何となく、「祝わせる」はいける気がするけど、「賑わわせる」はビミョーな気がするかも? この違和感については、日本語には「わわ」(特に、ひらがなの状態)が連続する言葉があまりないからなんじゃないかな? と私は思います。

 だって、ジャパンナレッジで日本国語大辞典第二版(日本最大規模の大辞典。紙媒体だと全13巻で、1巻あたり1400ページくらい。開くとA3くらいの大きさ)を対象にして、「わわ」を見出しに含む語を検索したら、オノマトペや感嘆詞の類を除くと、現代語は「たわわ」「チワワ」くらいしか出なかったんです! これ、もはや、「わわ」の響きは現代日本語の標準装備ではない、って言っていいんじゃないか?(※本題ではないので、ここでは深く立ち入りません。検証の余地は多分にあります)

 じゃあ、「賑わわせる」「祝わせる」についてちょっと考えてみるか~。


3.    「賑わわせる」がビミョーな理由

 まずは「賑わわせる」から検討してみましょう。

3.1.  自動詞vs他動詞

 ここでちょっと文法の話をします。あ、待って、帰らないで! ちゃんと説明するから!

 「賑わわせる」の根っこにあるのは、「賑わう」です。この言葉を辞書で調べると、ものによっては「自」「他」と書いてある場合があります。この「自」は「自動詞」で、「他」は「他動詞」です。

 え、それ、何だっけ?

 すごく簡単に言うと、こんな感じです。

 自動詞 …… 主語が自然にそうなっている感じを表わした動詞
 他動詞 …… 主語が意思を持って他の何かに変化を与えることを表わした動詞

 例を挙げます。

 自動詞 …… 子どもが育つ
 他動詞 …… 両親が子どもを育てる

 「育つ」は自動詞で、「育てる」は他動詞です。自動詞の時、「子ども」は「が」だったけど、他動詞の時、「子ども」は「を」になっています。また、他動詞では新たな登場人物「両親」が現れました。

 自動詞と他動詞は、とっても奥が深いです。日本語の動詞では、自動詞と他動詞とでことばの形が全く同じものもあります(数は少なめ)。形がちょっとだけ異なるものは、沢山あります。自動詞と他動詞のうち片方しかないものも、それなりにあります。

 まとめるとこんな感じ。

 自動詞のみ …… 生きる、死ぬ
 他動詞のみ …… 叩く、送る
 自他ペアあり(形が同じ) …… 開く(ひら-く)、閉じる
 自他ペアあり(形が違う) …… 育つ-育てる、起きる-起こす、開く(あ-く)―開ける

 さて、ここで「賑わう」について考えてみましょう。「賑わう」は自動詞ですが、これには他動詞バージョンがあるでしょうか?(あるとしたら、それは何?) それとも、他動詞バージョンはないでしょうか?

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 4

 3

 2

 1

 答え合わせ!

 「賑わう」には、他動詞バージョンがあります! 「賑わす」です。「賑わ」までは同じなのですが、その後ろが「う」だと自動詞、「す」だと他動詞、ということですね。

 自動詞「賑わう」と他動詞「賑わす」の特徴を比べてみましょう。

「賑わう」(ワ行五段・自動詞)
意味:にぎやかである
語幹:賑わ(nigiwaw-)
活用:賑わわない、賑わいます、賑わって、賑わう、賑わえば、賑わおう
例文:祭りの会場が多くの人々で賑わう。

「賑わす」(サ行五段・他動詞)
意味:にぎやかにする
語幹:賑わ(nigiwas-)
活用:賑わさない、賑わします、賑わして、賑わす、賑わせば、賑わそう
例文:多くの人々が祭りの会場を賑わす。

 じゃあ、「賑わう」「賑わす」に使役の助動詞をくっつけたら、どうなるでしょうか?

3.2.  「自動詞+使役」と「他動詞+使役」の違い

 ちょっと前に確認したように、五段動詞の後ろに使役の助動詞がくる場合は、未然形+「せる」の形になります。よって、言葉のかたちとしては、使役の助動詞をつけると、自動詞「賑わう」は「賑わわせる」になり、他動詞「賑わす」は「賑わさせる」となります(違和感の有無はさておき、かたちとしては、こうなります)。

 しかし! 自動詞に使役の助動詞を付ける場合と、他動詞に使役の助動詞を付ける場合とでは、効果が異なります!!

【自動詞の場合】
①祭りの会場が多くの人々で賑わう。
②祭りの会場を多くの人々が賑わわせる。(賑わう+せる)

 使役の助動詞を付けたことで、①「にぎやかである」が、②「にぎやかにする」という意味に変化しました。誤解を恐れずに言うと、自動詞に使役の助動詞がつくと、他動詞みたいになります。この特徴は、もともと他動詞の形がない動詞(「生きる」とか「死ぬ」とか)で考えると結構分かりやすいです。

【もともと他動詞がない自動詞+使役の例】
①私は生きる。(自動詞)
②物語が私を生きさせる。(自動詞+使役)
③金魚はいつか死ぬ。(自動詞)
④ちょっとした不注意が金魚を死なせる。(自動詞+使役)

 自動詞に使役の助動詞がつくと、他動詞みたいになる

 理屈は分かったけど、「賑わわせる」って言い方、やっぱりちょっと引っかかるよ~! そう思った方も、今は引っかかりを持ったまま、この先を読み進めてみて下さい。

 次に、「賑わう」の他動詞バージョン、すなわち「賑わす」の場合を見てみます。

【他動詞の場合】
①多くの人々が祭りの会場を賑わす。
②町内会のボスが多くの人々に祭りの会場を賑わさせる。(賑わす+せる)

 使役の助動詞を付けたことで、使役主体「町内会のボス」が登場しました。被使役者「多くの人々」が会場をにぎやかにしていることには、変わりありません。誤解を恐れずに言うと、他動詞に使役の助動詞がつくと、えらいひと(使役主体)が増えます

 でも、何となくだけど、よほどのことがない限り、「賑わさせる」って言わない気がします。使役の助動詞をつけると、登場人物が増える上に、登場人物の力関係が明確になります(えらいひとが被使役者に対して何かを強制する場合もあれば、双方の合意の上で被使役者が自発的に何かをする場合もあります)。だから、動詞がもともと持っている性質によっては、使役にするコストが高いのかもしれません。「言う→言わせる」「知る→知らせる」「考える→考えさせる」とかはすらっと言えちゃうと思うので、相性の問題はかなりありそうですね。

 この辺りは本題ではないので深く踏み込みませんが、「語彙的使役」「迂言的使役」という考え方で説明している人がいます。

 高見健一(2011)開拓社言語・文化選書25『受身と使役 ―その意味規則を探る―』開拓者

 受身や使役について、分かりやすく、かつ、詳しく述べている本なので、興味のある方にオススメです!

3.3.  「賑わわせる」って言う必要あるのか問題

 ……あれ、ちょっと待って。さっき、「自動詞に使役の助動詞がつくと、他動詞みたいになる」って話をしました。そして、「賑わす」は他動詞です。そうしたら、よく考えなくても、「賑わわせる」(自動詞+使役)より、「賑わす」(他動詞)のほうがシンプルじゃね? じゃあ、「賑わわせる」(自動詞+使役)、わざわざ使う必要ある???

 さっき出てきた例文を見ながら考えてみます。

 ①祭りの会場が多くの人々で賑わう。(自動詞)
 ②祭りの会場を多くの人々が賑わわせる。(自動詞+使役)
 ③多くの人々が祭りの会場を賑わす。(他動詞)
 ④町内会のボスが多くの人々に祭りの会場を賑わさせる。(他動詞+使役)

 うーん。②になんとなく引っかかりを感じます。
 語順を入れ替えてみるともう少ししっくりくるかも。入れ替えます。ちぇんじ。

 ①祭りの会場が多くの人々で賑わう。(自動詞)
 ②多くの人々が祭りの会場を賑わわせる。(自動詞+使役)
 ③多くの人々が祭りの会場を賑わす。(他動詞)
 ④町内会のボスが多くの人々に祭りの会場を賑わさせる。(他動詞+使役)

 確かに、なんというか、②より③のほうがシンプルで良い感じがします。他動詞がちゃんとあるのに、自動詞+使役の操作をする必要、別になくね? しかも、「わわ」って、日本語的にあまり使わない響きだから、使うのやめとこうかな……って気がしてきますね。

 でも、「賑わわせる」は、日本語の用例として全く使われていないわけではなさそうです。国立国語研究所によるコーパス検索ツール『NINJAL-LWP for BCCWJ』(以下、NLBと記します。NLBは会員登録をせずに使える無料のツールです)で、「賑わう」「賑わす」を検索してみました。

 もしNLBでの検索に興味のある方は、利用規約を熟読して同意し、検索バーのところに「賑わう」を入れてみましょう。新しいタブでなんか表っぽいのが開きます。

 賑わう 640件(うち、賑わわせる 3件)
 賑わす 104件

 「賑わう」の用例としては「客で賑わう」「人で賑わう」のように、「で賑わう」の用例がかなり多めですね。でも、「賑わわせる」の用例も地味に3件あります。まあ、かなり少ないけど、ないとはいえないですね。

 ちなみに、どういう用例なのか?

 以下に示すよーん。用例はいずれも書籍なので、著者以外にも複数の人のチェックが入っている文章である(≒その辺に転がってるブログ記事とかよりは言語運用上の信頼性が高い)といえそうです。

(金森誠也監修 『30ポイントで読み解く「ローマ帝国衰亡史」』, 2004, 232)

(野上芳彦著 『実践ボランティア講座』, 1996, 369)

(清水邦男著 『日米<共同幻想>論』, 1991, 319)

(※もしガチで言語を研究してガチな論文を書きたい場合は、NLBに書いてある用例そのものの妥当性も検証しましょう。書籍が実在するのか、その書籍のどのページに用例が存在するのかを、きちんと確認することを推奨します(みたいなことを、語誌研究してる教授が言ってました))

 うんうん、どの用例も「っぽいかも」「言われてみれば、そうかも」という感じがします。無生物(無情名詞)を「が」で標示して主語位置に置きたかったんだなあ、「何かで賑わったこと」じゃなくて「何かが賑わせたこと」を描きたかったんだなあ、ってにっこりしました。

 無生物を主語にすると、「今は人間じゃなくて、この無生物にフォーカスしてるんだぜ!」という感じが強調されます。NLBの用例に共通する「[場所]を[無生物]が賑わわせる」は、無生物に使役をくっつけて、疑似的に意志性を持たせています。何となくですが、「[場所]が[無生物]で賑わう」を使う場合と比べて、婉曲的だったり知的だったりする気がしますね。こういう表現、翻訳ものにいっぱいありそうです(偏見)。

 でも、「賑わわせる」そのものが頻度的にはかなりレア。実際の言語運用でも、「わわ」より、もっと簡単な方を使いたいよ~! という心理が働くのかもしれません。

3.4.  でも「賑わない」「賑わせる」とか言わない?

 あ、もしかすると、言うかも~!?

 私のPCでは、「?賑わせる」だったら変換できるんですが(なんでやねん)、「*賑わない」はちゃんと一語で変換できません。でも、この記事を書いている2025年12月29日現在、Google検索で一番上に出てくる謎のAIくんは、どうしてだか「*賑わない」とか「?賑わせる」という言葉を使うんですね。まあ文字で書いてくれたら何が言いたいのかは分かるんだけれど、「*賑わない」も「?賑わせる」も、学校文法の枠組みで説明するなら「先生の直しが入る表現である」ことになります。

 「?賑わせる」はGoogle検索のサジェストに載るくらいなので、きっと、使っている人もそれなりにいるのだと思います。だとすれば、「賑わう」「賑わす」は今まさに言語変化が起こっている途中の言葉なのかもしれませんね。

 日本国語大辞典第二版で、「賑わう」「賑わす」「?賑わせる」みたいなトリオが組めそうな動詞を探しました。検索のターゲットは、見出し語が「わす」で終わり、なおかつ、ワ行五段活用(古語ではハ行四段活用)であるものです。

 さあ、何が出たかな?

 合う/合わす/合わせる
 言う/言わす/言わせる
 食う/食わす/食わせる
 戦う/戦わす/戦わせる
 問う/問わす/問わせる
 匂う/匂わす/匂わせる
 煩う/煩わす/煩わせる
 笑う/笑わす/笑わせる

 結構あるやんけ! しかも、どれも日常的に使える表現ばかりです。この中に「賑わう/賑わす/?賑わせる」があっても不思議ではない。逆にないのが不思議である。

 学校文法の枠組みでは、「言わす」「食わす」などのワス系の動詞は「五段活用」ではなく、「下一段活用」と説明されます。だから、日本国語大辞典第二版によると、「言う」はワ行五段活用だけど、「言わす」はサ行下一段活用になるみたいです。

 そうなんや。でも、なるべく同じものっぽく処理したいな~! と思いながら、先ほど紹介した本を読んでいたら、「-さす」使役と「-させる」使役という言葉が出てきました。

 これじゃね!? 本の内容をかいつまんでまとめちゃうよ!

 「させる」使役
・使役の助動詞「-させる」(-sase-ru)をつける
・「走る」のように語幹が子音で終わる場合は、語幹(hasir-sase-ruのhasir)の直後のsが落ちる

(高見2011:4)

 「-さす」使役
・使役の助動詞「-さす」(-sas-u)をつける
・「食わす」のように語幹が子音で終わる場合は、語幹(kuw-sas-uのkuw)の直後のsが落ちる
・共通語や書き言葉では、「-させる」使役ほどには用いられない
・関西地方の話し言葉では広く用いられる
・「さす」は「させる」の短縮形だという人もいるし、関西の方言だという人もいる

(高見2011:141-142)

 これじゃん!

 ということで、私は、「ワスの方は、動詞の下一段活用ぽよ~」ではなく、「ワスの方は、五段活用の動詞に使役の助動詞がついている状態ぽよ~」と理解することにします。

 なお、ここまでさんざん「賑わう/賑わす/?賑わせる」の関連トピックについて語りましたが、「-させる」使役、および、「-さす」使役を「賑わう」に適用すると、以下のようになります。

【語幹をnigiwawとする場合】
 nigiwaw-sase-ru → 語幹nigiwawの直後のsを落とす → nigiwaw-ase-ru
 nigiwaw-sas-u → 語幹nigiwawの直後のsを落とす → nigiwaw-as-u

 これで「賑わわせる」「賑わわす」が爆誕するというわけです。

 ……え? 「賑わう/賑わす/?賑わせる」の話に帰結するんじゃないんかーい!? しかし私は同時に気付きました。「賑わす」は、あくまで自動詞「賑わう」の他動詞バージョンなのであって、使役バージョンではないのであります!

 でも、「賑わう」と「賑わす」を並べると、なんというか、語幹が「nigiw-」で終わってる感がありませんか?

 現代日本において「にぎわう」「にぎわす」の規範的な書き方は「賑わう」「賑わす」じゃな。じゃが、実はの、一昔前の日本においては「賑う」「賑す」も結構使われていたんじゃよ。語幹があくまで「nigiwaw-」なのは、ここからきているんじゃ。もし現代日本語の送り仮名の「賑わう」「賑わす」のみを観察しておれば、語幹が「nigiw-」っぽく見えてくるのも、わしには頷ける。

 (※語幹の設定方法については未検証です。テキトーなことを言っています)

 ……という論がもし通るのであれば!! もし通るのであれば!!!!

【語幹をnigiwa-とする場合】
 nigiw-sase-ru → 語幹nigiwの直後のsを落とす → nigiw-aseru
 nigiw-sas-u → 語幹nigiwの直後のsを落とす → nigiw-asu

 「賑わう」を「-させる」使役にすると、「賑わせる」が爆誕します。
 「賑わう」を「-さす」使役にすると、「賑わす」(本当はこれ、他動詞です)が爆誕します。

 うわああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 「賑わせる」だあああああああああああああああああああああ!!!!

 「賑わう」を使役にしたい時は、2種類の方法があるんだよ~! 「賑わす」と「賑わせる」になれるんだよ~! どっちも用法や意味は同じ感じだよ~! と説明されたら、納得する人もいるのではないでしょうか。そして、「賑わせる」がいけるなら、「賑わない」だっていけるでしょ、と考えるのは自然です。なぜなら、使役の助動詞「せる」も、打消の助動詞「ない」も、どちらも未然形につくからです。

 「賑わない」「賑わせる」が許容できるという人は、「賑わう」の語幹を(学校文法として正しいnigiwaw-ではなく)nigiw-であると考えているのかもしれませんね。これなら、「賑わう/賑わす/?賑わせる」を全部説明できます。


4.    実際、「祝わせる」って言います?

 ここまで長いこと、「賑わわせる」について検討してきました。なぜなら、「『わわ』……?」が出発点だったからです。だから、「祝わせる」のことを私は忘れていません。「祝わせる」についても、本当にちょっとだけ、ざっくり見ておきましょう。

 「祝う」は他動詞なので、「祝わせる」の場合は、えらいひとが登場するタイプの使役になります。

 生徒たちが先生の誕生日を祝った。(他動詞)
 先生が生徒たちに自分の誕生日を祝わせた。(他動詞の使役化)

のような感じですね。でも、この言い方、実際どれだけあるんだろう? 山内は訝しんだ。

 こういう時はNLBを頼るのが一番ですね。ある程度信頼できる用例がいっぱい詰まっている筈だから。

 「祝う」 787件
 「祝わせる」 2件

(Yahoo!ブログ, 2008, Yahoo!ブログ)

(広報あいこうか, 2008, 滋賀県)

 マジ? 「祝わせる」という言葉はほとんど使わない、ということではないのか!?

 そういうことにさせて下さい。本節は以上です。


5.    違和感があっても「味わわせる」だよ(2回目)

 いかがでしたか?(いかがでしたかブログ)

 ここまで、「わわ……?」を出発点として、「賑わわせる」を中心に、ことばをこねこねしてきました。「賑わわせる」「祝わせる」は、どっちも普通に言える表現だけど、そんなに使わないっぽいよ、ということです。

 最後に、「味わわせる」の話を少しだけして、おしまいにします。「わわ……?」なのに、何で「味わわせる」は普通に使われているのか、という話ですね。これについては、動詞「味わう」が他動詞用法のみであることが関係しているんじゃないかな? と私は踏んでいます。

 先に、自動詞に使役の助動詞をつけると他動詞っぽくなる、という話をしました。もし「味わう」が自動詞だったら、「味わわせる」は、自動詞に使役の助動詞がついた状態、ということになります。そして、その自動詞「味わう」には、対応する他動詞が存在することになります。だったら、自動詞+使役じゃなくて、他動詞を使ったほうがいいよね~! というのが、「賑わわせる」のところで見た内容です。

 でも、残念なことに「味わう」はもともと他動詞です。だから、「自動詞を使役化するんじゃなくて、他動詞を使おうね~」というワザが使えません。他動詞に使役の助動詞をくっつけるしかないのです。そして、「味わう」の語幹は「味わ」(ajiwaw-)なので、以下のようになります。

【語幹ajiwaw-の場合】
 ajiwaw-sase-ru → 語幹ajiwawの直後のsを落とす → ajiwaw-ase-ru
 ajiwaw-sas-u → 語幹ajiwawの直後のsを落とす → ajiwaw-as-u

 「-させる」使役なら、「味わわせる」が爆誕します。
 「-さす」使役なら、「味わわす」が爆誕します(が、私はこの言い方をしません)。

 というわけで、「味わう」に使役の助動詞がつくと、「味わわせる」となります。

 現代の日本語には、「わわ」系の言葉がほとんどありません。たわわ。チワワ。でも、「賑わう」や「味わう」に使役の助動詞がつくと、「わわ」が発生します。わわ!

 だから、「賑わう」→「賑わわせる」で、「味わう」→「味わわせる」だよ。それだけ覚えて帰ってね。おしまい。

文章の長さ: 短編(~2万字程度)
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