日本語アドバイス(26/02/05)の補足資料#12 同一語彙表現の回避方法⑧

 この記事群は、同人小説にコメントを付すサービス「感想&日本語アドバイス」で依頼者様に送付した補足資料(にちょっと変更を加えたもの)です。この記事を書くに至った経緯、参考文献などは、 #01 はじめに をご覧下さい。

1.1.    BEFORE

今度彼はベッドから毛布を持ってきて鈴木に渡す。鈴木はそれに初めて笑顔を見せた。
「大丈夫だよ。僕だって体が弱いわけじゃないんだから」
「いいから被ってろって」
ようやく見せてくれた笑顔に佐藤はほっと胸をなでおろしたのも束の間、彼はあることに気づいた。

1.2.    AFTER

毛布がある。
佐藤は立ち上がり、ベッドから毛布を取って鈴木に渡した。すると、鈴木は初めて笑顔になった。
「大丈夫だよ。僕だって体が弱いわけじゃないんだから」
「いいから被ってろって」
ようやく見せてくれた表情に佐藤はほっと胸をなでおろした。しかし、それも束の間、彼はあることに気づいた。

1.3.    改善案の生成プロセス

文脈
鈴木さんに毛布を渡したら、笑顔になってもらえた。でも、佐藤はあることに気付いた。

目標
①「それに」を使わずに、1文目と2文目をスムーズに接続したい。
②「笑顔」を1回だけ使いたい。
③「見せる」を1回だけ使いたい。
④「~したのも束の間」の用法を確認したい。

1.3.1.   「それに」の整理

 「鈴木はそれに初めて笑顔を見せた」において、「それに」は「見せた」から格を与えられていると考えられます。しかし、「見せる」が助詞「に」を与える名詞は、何かを見せる相手の人物であることが一般的です(例:太郎は花子に写真を見せた)。鈴木さんが笑顔を見せた相手は佐藤さんなので、助詞「に」を付与するなら「それ」よりは「佐藤」のほうが相応しいかもしれません。しかし、「それに」というのは、ここでは笑顔を見せる原因である、直前の文の情報「佐藤さんから毛布を渡されたこと」を指していることもまた、明確です。

 可能であれば「それに」は使わずに、しかし前の文との繋がりははっきりと残しておきたい。そこで、2つの文を自然に繋ぐ接続詞「すると」を用いることにします。

1.3.2.   「見せる」の言い換え

 動詞「見せる」は、その意味を遂行するために、誰かに何かを提示する動作主を「が」で表わし、提示する事物を「を」で表わし、提示する相手を「に」で表わします。「鈴木が」「笑顔を」「佐藤に」見せる……すなわち、ここで鈴木さんが笑顔を見せる相手は佐藤さんです。鈴木さんから佐藤さんへと談話の焦点(≒今の話題の中心は何か?)が移るタイミングで、「見せてくれた」の形式で使用すると、「テクレル」が佐藤さんの視点に立った見方なので、談話の焦点がスムーズに佐藤さんへと移ります。そこで、後者の「ようやく見せてくれた」は保持して、前者の言い換えを検討することにします。

 前者の文「鈴木はそれに初めて笑顔を見せた」では、今まで笑顔ではなかった鈴木さんが、初めて笑顔になった(笑顔以外の状態だったのが、笑顔の表情へとその状態を変化させた)ことを説明しています。状態変化を表わす動詞といえば、「なる」! そこで、「笑顔になった」とします。

1.3.3.   「笑顔」の言い換え

 「笑顔」は、今回は2つ目を言い換えることにします。「笑顔」に類する言葉(「微笑」「微笑み」「笑み」など)をチョイスするのも勿論アリですし、「笑顔」と同じ文脈で使える言葉(「表情」「顔色」「面差し」など)を使ってもOKです。

 ここでは「笑顔」が提示されたことによって既にどんな表情なのかが分かっているため、「表情」を選びました。「楽しそうな微笑」「明るい表情」のように、お好みでカスタマイズするのもアリですね。

 なお、1つ目の「笑顔」を言い換えて2つ目の「笑顔」を保持したい、という場合は、1つ目については「笑顔」に類する言葉を用いるか、笑顔だと分かるような表現を用いる(「口角が上がる」「相好を崩す」「顔をほころばせる」など)のが良いでしょう。

1.3.4.   「~したのも束の間」を整理する

 「~したのも束の間」は、名詞句でありながら、副詞的な働きをします(すなわち、従属節のような働きをします。英訳すると「こいつ完全に従属節やんけ」と思えるのですが、日本語において「~したのも束の間」はあくまで名詞句らしいです。本当か?(※未検証))。この表現が係っているのは、後続する主節(的なもの)の全体です。そして、その主節(的なもの)において主語を明示するなら、同一の主語は副詞において非明示にする方がより自然です。つまり、「~したのも束の間」において従属節(的なもの)と主節(的なもの)とで同一の主語を使うなら、1回だけ明示すればそれで良い、ということです。

 参考の文において、「佐藤は」が「束の間」の前に置かれている文よりも、「佐藤は」(または「彼は」)が「束の間」の直後に置かれている文の方が、「束の間」が従属節的な働き方を守っています。私は後者2つの方がより自然に感じるのですが、どうでしょうか?

参考
ようやく見せてくれた表情に佐藤はほっと胸をなでおろしたのも束の間、彼はあることに気づいた。
ようやく見せてくれた表情に佐藤はほっと胸をなでおろしたのも束の間、あることに気づいた。
ようやく見せてくれた表情にほっと胸をなでおろしたのも束の間、佐藤はあることに気づいた。
ようやく見せてくれた表情にほっと胸をなでおろしたのも束の間、彼はあることに気づいた。

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目次:日本語アドバイス(26/02/05)の補足資料#01 はじめに

文章の長さ: 掌編(2000字程度)
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