この記事群は、同人小説にコメントを付すサービス「感想&日本語アドバイス」で依頼者様に送付した補足資料(にちょっと変更を加えたもの)です。この記事を書くに至った経緯、参考文献などは、 #01 はじめに をご覧下さい。
1.1. 原文の流れ
原文の流れ
①鈴木さんが来る。外はとても寒い
②対話(移動描写なし)
③エアコンの電源を点ける
④鈴木さんが、佐藤さんに上着を脱がされる。鈴木さんがソファに座る (佐藤さんの描写はなし。立っている? 座っている? どこに?)
⑤佐藤さんが、ベッドから毛布を持ってくる
⑥佐藤さんが、鈴木さんの異変に気付く
原文の流れへの疑問
部屋の間取りや、家具の配置は、どのようになっていることにしますか?(キッチンが廊下に併設されているタイプなのか、キッチンが居室の中にあるタイプなのか、玄関と居室の間にはドアや襖による間仕切りがあるか、パソコンデスクの他にテーブルはあるか(あるとしたらローテーブルか、高めのテーブルか)、ソファとベッドの位置関係はどうなっているか など) 部屋の間取りや家具の配置が確定していると、今よりも更に状況を描写しやすくなると思います。
②には移動描写がありませんが、玄関で対話をしているのでしょうか?(もしそうだとすれば、かなり寒そうだなと思いました)
③ではエアコンの電源を点けていますが、その前に結構長めの対話が行なわれています。この間、佐藤さんや鈴木さんは寒さを明確に知覚していると思われますが、佐藤さんは「まずは部屋を暖かくしよう、とにかくエアコンの電源を入れよう」という発想にはならなかったでしょうか? あるいは、鈴木さんが悲しい気持ちになっているのではないかという心配が脳内を満たしていたため、寒さの心配までは思い至らなかったのでしょうか?
④では、佐藤さんが鈴木さんの上着を脱がせていますが、上着が雨に濡れていたとか、脱がせた上着を頭の上から被せてあげようと思ったとか、そういう事情があるのでしょうか?(もしそうでなければ、エアコンの点いていない寒い部屋で、ただでさえ寒い思いをしている人から上着を奪ったら、だいぶ寒さを感じそうだなと思いました)
原文の流れの特徴
こんな時間に現れた鈴木さんを何とかしてあげなければという義務感や、寒いだろう、空腹ではないか、という想像は記述されているけれども、「達樹ファースト」的な信念や、その信念に裏打ちされた献身的な行動は、そこまで強くは記述されていないように感じられました(この時点での佐藤さんが「達樹ファースト」的な信念をさほど強く持っていない可能性もあり得ます)。それよりも寧ろ、「何か悲しいことがあったのか?」「こんな時間にどうしたのか?」「そういえばこの部屋、寒いんだった」「ソファに座るなら、まず上着を脱ぐべきだ」「酒を飲んだのか?」「お腹が減っているのか?」といった、その場その場での佐藤さんの考えが描かれ、その考えに反映された行動が描写されている印象を受けます。良くも悪くも、佐藤さんはとても人間的な振る舞いをしているように感じられます。
「温かいもので達樹を満足させてやりたい」という気持ちは強くありつつも、佐藤さんがちょっと無遠慮だとか不器用であるなら、原文の流れは大いにアリです。幸せにしてあげたい気持ちは強く持っているのに、今の自分では幸せにしてやれない……という感じが強く出るように思います。
また、「温かいもので達樹を満足させてやりたい」という気持ちよりも、「達樹に会いたいと思っていたら、本当に会えた!」という喜びや、「こんな時間に、何があったのだろう?」という好奇心のほうが強ければ、この流れはやはり大いにアリです(が、この線はそこまででもなさそうです)。
1.2. 改善案の流れ
改善案の流れ
①鈴木さんが来る。外はとても寒い。2人して居室に移動する
②佐藤さんが、鈴木さんをソファに座らせる。佐藤さんが、ローテーブルを挟んで鈴木さんの正面(カーペットの上)に座る
(ソファは2人掛けなので、隣に座るのもアリかもしれません。しかしその場合、距離が近付くので、佐藤さんは鈴木さんから何となく漂う酒臭さを感知し、飲酒に気付くかもしれません)
③佐藤さんがエアコンの電源を点ける
④対話
⑤佐藤さんが、ベッドから毛布を持ってくる
⑥佐藤さんが、鈴木さんの異変に気付く
改善案の特徴
佐藤さんが鈴木さんを寒さから救出したいという明確な行動方針を持っているように記述しました。まず温かさを確保してから対話する、という流れです。ただし、この流れだと、原文から滲み出ていた佐藤さんの不器用さや人間らしさの要素がちょっと減るので、「佐藤さんって、鈴木さんをなるべく合理的に助けたい人なのかも?」という印象を抱く人もいるかもしれません。
改善案では、物語展開(何がどの順番で起こるのか)を少し変更しています。来訪した鈴木さんの顔や指先は真っ赤で、震えている。寒いのだと分かった。何か良くないことがあったことも分かった。まずは温めてやらないといけないと思った。だからエアコンを点けた。部屋はそれなりに温かくなったし、毛布も渡した。しかし鈴木さんの赤い顔はいつもの白さに戻らない。そこで、「もしかして酒を飲んだのか?」と考える。……という物語展開にしました。
1.3. 具体的な改善案(ワンシーンを記述)
改善案(ワンシーンを記述したもの)を、参考までに以下に示します。表の番号は、「改善案の流れ」の番号と対応しています。なお、改善案の作成にあたっては、
・原文のセリフを可能な限り保持する(一部、倒置法にしたところがあります)
・物語の進行は「改善案の流れ」に従いつつ、原文の表現をそのまま使える箇所はそのまま使う
・同一語彙表現の言い換えを適宜行なう
の3点に留意しました。
| ① | 慌てて扉を開けば、そこには手や顔を真っ赤にして震える友人がいた。外から凍てつく風が吹き流れてきて、部屋の寒さに慣れていたはずの佐藤も思わず身震いをしてしまう。玄関付近の室温は、今の一瞬でぐっと下がったことだろう。彼は急いで鈴木を部屋に招き入れた。キッチンを兼ねた細い廊下を進み、来客と共に狭い居室に戻る。 |
| 1.5 | 「ごめん」 鈴木はたったひとこと謝罪したきり、立ったままずっと黙っている。彼の様子が普段とは明らかに違うので、佐藤は心配になった。何か悲しい思いでもしたんじゃないか、と。数年前の事件のことが脳裏をよぎる。 沈黙に耐え切れず、佐藤は口を開いた。 |
| ② | 「とりあえず座れ」 佐藤は二人掛けのソファを指さした。窮屈な部屋に不釣り合いなそれは、友人が来ることを見越してベッド代わりに設置したものである。言われるままに着座した鈴木は、うつむいたまま何も言わない。 「……どうしたんだよ、こんな時間に」 |
| ③ | 佐藤はソファの正面の床に座り、あぐらをかいた。フローリングの冷たさがカーペット越しに伝わってくる。外気とそこまで変わらないこの部屋を、少しでも暖めなければ。その思いでエアコンの電源をつける。 無機質なモーター音に混ぜるように、鈴木は申し訳なさそうに言う。 |
| ④ | 「終電に間に合わなくて……」 この部屋は安い代わりに最寄駅から歩いて三十分はかかる。その最寄りだって随分と辺鄙で、大きな駅まで行くには十駅以上も距離がある。そんな場所で終電を逃すまで何をしていたというのだろうか。あからさまな嘘を誰が信じるのだ。 問い詰めたくなる衝動を佐藤はぐっとこらえた。 「……そっか、大変だったな」 我ながら安っぽい言葉だ。小さく嘆息すると、息はもう白くはなかった。エアコンが機能しているからだ。いくら掃除してもとれないほこりのにおいを僅かに乗せながら、温かな風が部屋に広がっていく。 「あんま暖かくないだろ」 「充分だよ。でも、節約だからって風邪は引くなよ」 「お前に言われるほど雑魚じゃねえよ」 |
| ⑤ | 鈴木の手や顔は相変わらず赤い。エアコンを強めるが、部屋の温度はなかなか上がってくれない。 きっともっと温めてやれる方法があるはずだ。部屋を見回す。ベッドに目がいく。毛布がある。 佐藤は立ち上がり、ベッドから毛布を取って鈴木に渡した。すると、鈴木は初めて笑顔になった。 「大丈夫だよ。僕だって体が弱いわけじゃないんだから」 「いいから被ってろって」 ようやく見せてくれた表情に佐藤はほっと胸をなでおろした。しかし、それも束の間、彼はあることに気づいた。 |
| ⑥ | 「……お前、酒飲んできたのか?」 普段は真っ白な鈴木の肌は、どれだけあたためても赤いままである。佐藤の指摘に対し、鈴木は自嘲気味に「先輩に付き合わされて……」と呟いた。 |
物語進行の改変はここまでで、この先は原文の通りに進めていきます。
目次:日本語アドバイス(26/02/05)の補足資料#01 はじめに
